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2005.01.13

ご遺体と細菌

実は人間の体は細菌まみれである。 皮膚の表面に膜の如くに張り付いているものの他にも、口から始まる消化管全体には細菌が渦巻いているし、女性なら膣にも細菌はいる。 しかし、「細菌が居ても良い場所」と「細菌が入ってきてはいけない場所」をはっきりと分けていて、「入ってきてはいけない場所」の境界にはウヨウヨと免疫細胞が寄り固まってバリアを作っているし、まあ様々な仕組みで侵入を防いでいるので、よっぽどの事が無い限りは、意識しなくても脅かされることが無い。

人間が生命活動を停止すると、生命体としての仕組みが成り立たなくなるので、もちろん免疫そのものも崩壊し、ただの肉の塊になる。 そうすると体中に居た細菌がいっせいにアタックを開始して、腐敗が始まる。 もともとたくさんの窒素を含んでいる人間は、栄養分の塊のようなものだし、おまけにたっぷりの水分も持っているので、あとは温度が適当に保持されれば、まるで細菌培養のための培地のようになってしまうのだ。

病院では亡くなった方のご遺体に、「死後の看護処置」を行う。 これは「エンジェル・ケア」と呼ばれる。 消化管に残っている残渣を取り除き、体を薄い消毒液で丁寧に拭いて清めるのは、体についている細菌の数をなるべく減らすためだ。 その後でなるべく涼しい冷房の効いた部屋に移動して、必要に応じてドライアイスを抱かせるようにご遺体に添わせる。 ご遺体そのものの温度を下げて、細菌の繁殖速度を遅くすると同時に、ご遺体が他の入院患者への感染源とならないようにするためである。 もちろん、ご遺体を清めるのは、残されたご遺族に対しての心理的ケアや、亡くなった方への尊厳の面も含まれているのは言うまでも無い。

例のスマトラ島沖の大地震では、いまだにたくさんのご遺体が気温30℃の中で放置されていると聞く。 その腐乱状態を想像するにつけ、頭を抱えるような気分に陥ってしまう。 多分、すごい腐敗臭が辺りに漂っているはずだし、二次的な衛生環境の悪化が本当に心配だ。 自分の拙い経験では、ご遺体の腐敗臭は一度鼻についたら、一生忘れられずに記憶の中で匂い続けるような臭いである。 その中で暮らさなければならない人、作業しなくてはならない人・・祈らずにはいられない。

ニュースの映像を目にする度、自分の記憶に染み付いているご遺体の腐敗臭が、鼻の奥に甦ってきて、複雑な気持ちになる。

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