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2005.03.18

イースターの思い出 その2

何とかして日向ぼっこの気分だけでも、味わわせてあげることはできないだろうか。 気持ちだけは強くあるのだが、いい考えが浮かばなかった私は、スタッフに持ちかけてみたが、皆一同に「うーん・・」と首をかしげるしかなかった。 寮に戻ってから友人たちにも話をしてみた。 そのおばあさんは入院期間が長かったので、私以外にも以前受け持ったことのある学生も複数いたし、受け持ちではなくてもどんな状況なのかは外科病棟の実習生なら皆知っていたから、話は早い。 「とにかく、動かすことはできない」・・これは最低条件だった。 ある友人が、「布団を干してあげたらどうか」と言い出した。 布団や毛布を干してお日様の匂いを包み込んで、それを彼女に掛けてあげる。 なるほど、それならできる。 でも、既に意識レベルが落ちてきている彼女には少々インパクトが弱いし、認識してもらえないかもしれない。 そんなこんなの内、反射光を射し込ませることはできないか?という話が持ち上がった。 廊下の反対側の6人部屋、その窓際に鏡を置かせてもらって日光を反射させる。 他に一・二箇所の鏡を中継すれば、何とかなるのではないか。 やれるだけのことをやってみようということで話がまとまり、次の日、昼食の休憩時間を利用して実験が始まった。

外科病棟の倉庫には、退院していった患者さんの忘れ物の鏡が何個かあったので借りることにして、とりあえず6人部屋から廊下まで、光を反射させる。 廊下を横切る形で一度中継し、彼女の病室のドアまで導く。 最後にドアから彼女の枕元まで反射させる、こんな計画だ。 既に布団と毛布は朝のうちに屋上に干してあった。

なかなか思うように事は進まなかったが、退院をまじかに控えた大部屋の「暇を持て余している元気な患者さん」や、ちょっと手の空いたスタッフ、たまたま病棟に顔を出した医師なども面白がって協力してくださり、すったもんだしながら午後の2時近くになって、ようやく小さな光を彼女に届けることに成功した。 最後の鏡は角度を微調整できるように手鏡を使ったので、彼女を照らしたのは直径7センチほどの小さな楕円の日光だった。 お嬢さんが彼女の耳元で、「お母さん、日向ぼっこしましょう。」と、話し掛け、反射光を顔に当たるように調節した時、驚くべきことが起きた。

それまでずっと低い意識レベルだった彼女が大きく目を見開き、さっと目に力を宿したかと思うと、少女のように声をあげてキャッキャとはしゃいだのだ。 辛うじて動かせる肘から先を小さな楕円のお日様にかざしては、身体に塗りつけるようなしぐさを繰り返した。 廊下まで響くような大きな声で「嬉しい!嬉しい!!」と繰り返した。

皆、彼女の変わりようにびっくりして、そのすぐ後でもらい泣きした。 お嬢さんもぼろぼろだったし、スタッフも私も黙って泣いた。 元気な入院患者さんまでいつのまにか彼女の病室に入ってきて手を取り、「ばあさん、良かったな。」と顔をくしゃくしゃにしていた。 冬の短い日はあっという間に傾き、数十分間で景色は夕暮れの匂いを濃くした。 眠り込んだ彼女の布団を、干し上げてふかふかのものと交換して、私たち学生は病棟を後にした。 (まだ続きます)

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