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2005.03.28

真夜中のトマト

かつて新生児を専門に看護する部署で働いていた頃、夜中に良く相談電話がかかってきた。 夜は人間の心理状態が一種独特のものになることが多いようで、それは「夜中に書いた手紙は、朝に読み直してから出せ。」という言葉に集約されているように思う。 まして初めて赤ちゃんを抱える新米ママやパパにとっては、昼間にはなんでもないことでも、急に不安が募ったりしたって当然だ。 ご近所の手前もあり、赤ちゃんが夜中に泣き止まなかったりすると、居たたまれなくなって電話してくる・・そんなことも多かった。

ある夏の夜に電話があった。 赤ちゃんのオムツに血が付いているという。 しかもべっとり・・。 電話を受けたのは後輩で、これは自分の手には負えないと思ったのか、電話を保留にして「病児室」に篭っていた私の所へやって来た。 下血となれば一刻を争う。 でも、「赤ちゃんは元気もあるし、おっぱいも普段通り飲んでいるし、ぐったりした様子も無い」とのこと。 おととい退院したばかりだと言うので、まだ新生児室に残っていたカルテをチェックするが、考えられるリスクも見当たらない。 ふとカルテの住所を見ると、病院からそう遠くない場所だ。 電話をかけてきたご両親の心配も強いし、尋ねれば車で5分もかからないと言うので、念のため新生児室に連れて来てもらうことに。 「血のついたオムツを持ってきてくださいね」と、後輩は念を押して電話を切った。 赤ちゃんは病気になるとあっという間に進行してしまうので、新生児室の中に必要最低限の検査機材が揃っているし、スタッフが使いこなせるよう訓練も受けている。 万が一に備えて準備を整えて、家族の到着を待った。

赤ちゃんはすやすやと眠っていた。 お腹を触診して目を覚ましても、どう見ても病気の赤ちゃんには見えないし、一通りの検査にも、全く異常値は現れない。 でも、持ってきたオムツには確かに赤い血便のようなものがたっぷりと付着している。 「んー、どうしたんでしょうねえ」・・心配顔のご両親を横に、私たちも首をひねった。 目の前にはきょとんと手足をばたつかせている元気な赤ちゃん・・。

「あれ?、もしや・・!!」 ふと思いついて尋ねてみた。 「あのー、念のために伺いますが・・この赤ちゃん、おっぱいやミルク以外の物を、飲んだりしていませんよね?」 しばらく考えた後、ママが「あっ!!」と、大きな声をあげた。 「トマトをあげました!」 「トマト?」 「夕方、おっぱいは足りているはずなのにどうしても泣き止まなくって、何か違うものが飲みたいのかと思って、冷蔵庫にあったトマトを。」 「食べさせたんですか?」 「絞って哺乳瓶で飲ませました。」 「どのくらい?」 「50ccくらい・・」 「それだぁ!!」 トマトを消化できなかった赤ちゃんは、若干の水分だけを吸収した後でオムツにそのまま排泄したのだった。

生まれて一週間でトマトを食べたという奇特な経験をした赤ちゃんは、元気に帰っていった。

昨夜、夜中にひとりでトマトサラダを食べる夢を見た。  せっかく夢で見たので、朝ご飯にトマトを切ってサラダにした。 こんな赤ちゃんのことを思い出しながら、「変な夢だったな」と思いつつ美味しく食べた。

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