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2006.03.05

懐かしの苺パフェ

苺が出回る時期にになると、高校で同級生だったK君のことを思い出す。

推薦入試でとっとと進路を決めてしまった当時の私にとって、みんなが受験や合格発表に一喜一憂するこの時期、学校は既に消化試合みたいなものになっていて、通いながらもほとんど遊び呆けていたし、かと言え(公立学校で)推薦入試を利用する学生は多くないので、一緒に遊ぶ相手を見つけるのも難しかった。 気の合う友達で、尚且つ進路が決まっている友達なんて、容易くはいない。 だから繁華街やショッピングに興味の無い私は、休講が出ると「自主休講(要するにサボりと呼ばれるヤツです)」と合わせて、どこかに出かけて散策したりしていたのだが、お小遣いのほとんどはレコードとライブチケット代に消えていたから、交通費だってばかにならないし、そんなに毎日は遊びに行くことも出来ない。

ある日、教室でお昼のお弁当を食べていたら、午後の授業が休講になることがわかった。 とりあえず家に帰ろうと思って、教科書などを鞄に詰め込んでいたら、K君が話しかけてきた。
「今日用事ある?」
「別に無いけど。」
「あのさ、ちょっと一緒に行って欲しい店があるんだけどさ・・」
なんだかモジモジして言い難そうなK君を訝しがった私に、
「もちろん怪しい所じゃないんだけどさ。 女の子と一緒でないと辛いんだよな。」
K君はそんなに遊びなれている風でもなさそうだったし、普段からちょこちょこと話をする程度の友人だったから、私はOKすることにして、校庭のうらにある駐輪場で待ち合わせた。 私達は二人とも自転車通学だったからだ。

風は冷たかったけれど、手袋やイヤーパッドをしていれば陽射しが暖かく、気持ちの良いサイクリングだった。 スピードを気遣うように時々振り向いてくれるK君の後ろをついてゆくこと20分あまり、幹線道路沿いのファミレスの前で、K君は止まった。
「あのさあ、お茶しない?」
自転車のサドルに腰掛けたまま、長話をするのも妙に思えたので、「いいよ」と短く答えて、二人はお店に入った。 当時はファミレスも今ほど生活に馴染んではいなくて、どちらかと言えば目新しくて珍しい形態のお店と捉えられているような所があった。

席に案内されウェイトレスさんが置いて行ったメニューを開くと、速攻でK君は言った。
「僕、苺パフェ。 あっ、そうそう、おごってやるからさ、リーボー何でも好きなもの食べていいよ。」
まるで来店する前からメニューを決めてきたかのように見えた。
「おごってもらえるのは嬉しいけど、私もお弁当食べたばっかりだし、やっぱりオヤツ系かな。」
「じゃあさ、このチョコレートサンデーにしなよ。」
食べきれるかなあ・・と、不安がる私に「余ったら僕が食べてあげる。」と笑って、K君は勝手にメニューを決めて紅茶も一緒に頼んでくれた。 私は内心K君の強引さに驚きながらも、まあおごってもらえるならいいか、と、自分を納得させた。

さて、運ばれてきた苺パフェの大きなグラスを、柄の長いスプーンでどんどん口に運ぶK君の、嬉しそうな表情ったらなかった。 どちらかと言えば寡黙なK君が、今まで見たことも無いようなニコニコ顔で食べている。
「甘いもの、好きなの?」
「すごく好き。 和菓子やあんこものじゃなくって、ケーキとか生クリームとか、アイスとかが特にね。」
「じゃあ、パフェなんて、オールスターズって感じ?」
「そうそう、オールスターズ。 リーボーは?」
「私あんまり甘いもの得意じゃないんだ。」
「女の子でもそういう人もいるんだ。」
「うん、珍しいって言われる。」
「ふーん」
結局、大きなチョコレートのアイスクリームが3つも乗っていたチョコレートサンデーの8割近くは、K君に食べてもらうことになった。 何の問題も無く嬉しそうに平らげてゆく姿を、頼もしく思いながら、私は紅茶を飲んでいたのを覚えている。
「そんな少しで足りるの?」
「ウン、もう十分だよ。 口の中、甘くなっちゃった。」

すっかり平らげた後で、K君は、
「いや、今日は付き合ってくれてよかったよ。」、と、言ってきた。
「こちらこそ、食べ切れなくてごめんね。」
「しばらく前からすごくパフェが食べたくなってさ。
 でも、店で男がひとりでパフェ食うのも、なんか変じゃない?!で、困ってた。」
「じゃあ、チョコレートサンデーも食べられて良かったわけだ。」
「本当は残してくれてすっごく喜んでた、俺。」
誘われた理由もはっきりわかって、私は笑った。 甘いもの好きな男性はいかに苦労しているか、を、いろいろと話してくれて、私も興味深く聞いていた。

それから卒業までの間、K君は何度か私を誘い出して、ケーキ屋さんに連れて行ってくれた。 気が引けるのでいつからか割り勘になったが、もちろん二人分オーダーしても、そのほとんどはK君が食べてくれた。 ティールームが無いような、でも、人気のケーキ屋さんではテイクアウトにしてもらって、公園のベンチで食べていたこともある。

真っ赤な苺と生クリームの真っ白なコントラストをどこかで目にする度に、あの時の苺パフェを思い出す。 あれから私は、K君みたいな甘いもの好きのパートナーと結婚して、今でも食べきれない分を手伝ってもらっている。 K君もきっと奥様と一緒にパフェを食べているのかもしれない。

人が勝手に結びつけたイメージは、時として邪魔なしがらみになる。 でも、それに反している姿も、どことなくユーモラスに思えて、好感が持てるものなのかも。 関連するような写真と記事を見つけたので、リンク張っておきます。 『男パフェ』 

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