« 食器の趣味 | トップページ | 読める文字・読めない文字 »

2006.05.21

「すてきなあなたに」

このページの右下で本を何冊か紹介させていただいている。 ご存知の方も居られるかと思うが、今読んでいる「すてきなあなたに 5」は、雑誌「暮らしの手帖」の同名のコーナーから抜粋された文章の集まりだ。 巻末の言葉によれば、もう36年も続いているコーナーとのこと。 正に、継続は力なり、である。

幼い頃に母が「暮らしの手帖」を読んでいた期間があって、子供ながらにぱらぱらと読ませてもらった。 当時の私には本編は難しくて、文字がびっしり詰まっている印象が強く、面白いものではなかったと記憶している。 それでも、美味しそうな料理の写真に惹かれて頁をめくる内、唯一内容をちゃんと読みこなせたのが「すてきなあなたに」のコーナーだった。 雑誌の、どちらかと言えば後ろの方で、淡い背景色の紙で印刷されている短い文章たち。 タイトルは必ず手書き文字だ。 日常のなんでもない光景や、ちょっとした出来事を切り取ったような、でも、誰かに「こんなことがあったのよ・・それでね・・」、と、話したかったのであろう内容が集められている。 食べ物のお話が何篇かにひとつ、必ず取り上げられているのも、食いしん坊の私には楽しかった。

大人になってから、中古本屋さんで偶然に「すてきなあなたに」のハードカバーを見つけ、迷わずにその場で買った。 たったの100円。 調べてみたら既に3巻まで、発刊されていたので、「2」と「3」はちゃんと定価で取り寄せてもらった。 それ以降のお付き合いが続いている。

執筆者は複数のようだが、多分入れ替えがないのだろう、内容の選び方も目の付け所も、少々年寄りっぽくなってきたような印象は否めない。 が、それにも増して私が魅力を感じているのは、日本語の使い方や表記の仕方に間違いがないことである。 エッセイに近いので決して堅苦しい表現は用いられていない。 温かい普通の日本語だ。 それでいながら凛とした丁寧さがあり、どこからか上品な感じが滲み出て、丸みのある穏やかな日本語なのである。 トゲトゲとした攻撃性を持たなくても、伝えたいことを力強く伝える、その日本語の使い方に、私はいつも安心して身を任せて読み進めることが出来る。

インターネットを気軽に使うことの出来る世の中になり、ブログで誰しもが発信者として、様々な意見を社会に流すことが出来る昨今ではあるけれど、ブログばかりを読んでいると、時として廃れたような気持ちになることがある。 誰かに読んでもらうための日本語と、日常使いのくだけた日本語の境目がなくなっている。 一部の人がニュアンスだけで分かり合っているような日本語は、読んでいてあまり良い気分ではない。 一方的に価値観を押し付けられているような気持ちになってしまうのだ。 流行を知ることは出来ても、そこに共感は生まれない。 ましてや、文章の構成が明らかにおかしいような場合、読んでも言いたいことが伝わってこないことすら、日常茶飯事的に遭遇する光景。

「『正しい日本語には力がある』、そのことを、ひとりの日本語の使い手として忘れずにいなさい」、と、「すてきなあなたに」シリーズから、ずっと教え続けてもらっているような、そんな気がする。 私のお気に入りだ。

「すてきなあなたに 5」は大橋鎮子編、暮らしの手帖社発行、消費税込みで1800円。

|

« 食器の趣味 | トップページ | 読める文字・読めない文字 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 「すてきなあなたに」:

« 食器の趣味 | トップページ | 読める文字・読めない文字 »