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2006.08.28

お祓い その1

ずっと以前に都内の病院で勤務していた時のこと。 病院はカトリック・キリスト教の修道院が運営母体の、「バシバシのキリスト教理念に基づいた病院」で、各病棟・各セクションの師長は修道女(シスター)が務めていた。

ある日の午後、会議に出席中の直属の看護師長から私宛に電話。 指定の時間になったら後輩をひとり連れて○○病棟へ行くように、とのこと。 「行けば解るし、10分ぐらいで終わるから・・」とだけ告げて、電話は切れてしまった。 こちらにも時間内にこなさなければならない仕事が山積だから、文句をいっている暇があるなら、とっとと済ませてとっとと帰ってこようと腹を決め、後輩とともに指示された病棟へ向かった。

向かった先の病棟師長は、他のプロジェクトで一緒に仕事をさせていただいた顔見知りだ。
「ああ、助かったわ! これ使ってちょうだいね。 こういうことは他の病棟の人が来てくれたほうがありがたいのよ!」
そう言って、差し出されたのは賛美歌の歌集。
こちらはちんぷんかんぷんだ。
「いったい何が始まるんですか?、シスター。」
「あら、聞いてなかった? 『お祓い』よ、『お祓い』。」
「はあ??」
「適当に賛美歌を歌いながら、私の後について来てくれれば良いから。」
病院には付属の大学があり、そこの卒業生はキリスト教を学ぶことが義務付けられているので、当然賛美歌もそこそこ唄える。 それで私たちが呼び出された理由のひとつは解った。

そこに病院付きの神父様がやって来た。 入院患者さんを元気付けたり宗教的行事のために、毎日病院を訪れてくださる修道院の神父様だ。 どこか詳しくは存じ上げないけれど、白人系の外国人で日本語は片言である。 詳しく尋ねる間も無く、「デワ、始メマショウカ。」

先頭に神父様、続いてキリスト像を胸に抱いたシスター、その後に私たち、そしてその病棟のスタッフで処置中でない人が、ぞろぞろと進む。 中には勤務時間外の私服のスタッフも混じっていた。 私以降のスタッフみんなで賛美歌を歌いながら。 神父様は先頭で、お祈りをぶつぶつ口にしながら、聖水の容器から専用のピンポン球大のボンボンを左右に動かして、聖水を廊下に振りまいている。 ・・午後の面会時間の病棟でいったい何が始まったかと、元気な入院患者さんが病室の入り口から廊下に首を出して、私たちの行列を物珍しげに眺めていた。 なんだか恥ずかしくて顔から火が出そうなのに、神父様はもったいぶったようにジリジリと歩を進めた。

病棟の全ての廊下を一周した後で、最後に看護師室の前で最後の賛美歌を一曲歌い、お決まりの祈りの言葉をみんなで唱えて、『お祓い』は終わった。 病棟のスタッフたちは「これで安心ね」とか言いながら、サーッとそれぞれの仕事に散ってしまい、残された私と後輩とシスターとで神父様にお礼を言い(訳も判らぬまま・・)、見送った後で、シスターが言った。
「いやあ、本当にありがとう。 コーヒーでも飲んで行く?」
「まだ仕事の途中なんでコーヒーは遠慮しますけど、いったい何の『お祓い』なんですか?」
「それが、ここじゃあ言えないから、やっぱりコーヒー淹れるわ。」
そう言って、スタッフの休憩ルームに私たちを案内してくれた。

「あのね、お化けが出るって言うのよ。」
「スタッフが見たんですか?」
「そうなの。 夜勤の人がね。 変よね、そんなの・・ナンセンスでしょ。 だけど、そのうち患者さんの中にも『私も見た』なんて言い始める人が出てきちゃって。 噂ってすぐ広まるじゃない?」
「ただでさえ、患者さんは時間を持て余してる人も多いですもんね。」
「大騒ぎになる前に手を打っておこうと思って、それで、『お祓い』なのよ。」

「あのー、シスター、変なこと聞きますけど、キリスト教的にも『お祓い』なんて存在するものなんですか?」
「私も知らない!!」
「お化けっていう存在は?」
「・・それも知らない。 どうなんでしょうね?」 そう言ってシスターは首をかしげている。
「じゃあ、神父様は今なにをしてくださったんでしょう??」

(この話、続きます。)

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