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2007.02.13

記憶

たまたまブログをサーフィンしていて、自然流産の処置を受けてきたという内容のウェブサイトに出くわした。 胎内死亡が確認されてから、処置を受ける今日までの、生々しい声の記録がアップされている。 ショックで揺れに揺れているであろう精神状態の中で、ちゃんと気持ちを言葉にして、波に飲み込まれないように自分をしっかり保つように、必死に現実と向かい合っている様子が伝わってきて、私もずいぶん前に似たような経験をしたことを、いろいろと思い出していた。

生まれることなく天に帰ってゆく命を見送らなくてはならない悲しさは、悲しみの中でもちょっと独特なもののような気がする。 なぜならば、心の痛みとは別に、既に命を失った子供を胎外に出さなくてはならない処置が残されているからだ。 子供が大きく育っていれば、人工的に陣痛を起こして分娩しなくてはならないし、妊娠の早期においては、医療器具を使って取り出さなくてはならない。 麻酔をかけても、眠っている間に処置が済んだとしても、まだ自分の胎内の子供の死についてゆっくり考える時間もないままに処置を受けるのは、二重の苦痛だ。 精神的なものと物質的なもの、その二つがバラバラに扱われる妙な感覚は、空しく冷たい印象を残す。

それでも私は、看護師の資格を持っていてそこそこの知識があったから、自分の身体で起こったことを、普通の妊婦さんよりは客観的に捉えやすかったはずだが、それでもいっぱいいっぱいだったような気がする。 周りの人に言わせれば、「ちゃんと現実を直視しているのか心配になるほど冷静だった」らしいが、本人は、実は大事なことを余り覚えていない。 そのかわりに、本当にどうでもいいこと、例えば陣痛を誘発する薬を点滴されながら、勤務する新生児室の朝礼の様子が見えたとか、隣で他の妊婦さんが陣痛の最中で、無事に生まれるように祈っていたこととか、そんなことばっかり・・。

ふと気付けば、あれからずいぶんと時間が経ったことになるが、痛みとか苦しみとかそういう感覚とは別の、自分の身に起こったひとつの出来事として、しっかりと刻まれている。 多分決して忘れることなく、死ぬまで持ってゆく記憶になるのだろう。 例え短期間であったとしても、母親としての気持ちを持つことが出来たし、人工的であったにしても陣痛も経験することが出来た。 それに、やはりいちばん大きかったことは、命について深く考える機会をもらったということだ。 あの経験がなかったら、たぶん今の私は全く別の人間になっていたように思う。 小さな命の置き土産は、非常に長期間にわたって、私に影響を与え続けているのだ。 そのエネルギーの総量はとてつもなく大きい。

どんな悲しみでも、きっとやがて姿を変えて、自分の成長の糧になったと実感できる時が来るのだと思う。 その時は判らなくても、いつかきっとその意味が判る日が来る。

書こうと思えばある意味において、壮絶な記録なのだと思うし、現実として私は相当取り乱したし、泣き叫んでいた。 だが、今となってはとても穏やかな気持ちで、生まれてこなかった自分の子供たちに祈りを捧げていて、今同様の経験をしている人や、同じように傷ついている人に言葉を贈ることも出来るようになった。 そんな風になれた自分がなんだか不思議だな、と思う気持ち半分、グロテスクな記憶の輪郭がぼやけて、淡く美しいものに変わっていること自体が、少し哀しくもある。

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コメント

早速来ました。
けろたんです。
実は聞きたいことがあって・・・。
流産の手術が終わってから3日目になりますが、
今朝寝起きの時と、薬を交換しに病院に行って帰ってきてソファで一息ついて立ち上がろうとしたとき、股関節(太股の内側)に立っていられないような痛みが走りました。
これは術後良くあることなのでしょうか?
もし、知っていたら教えてください。
長女を出産したときは、促進剤や下剤など薬はほとんど使わなかったためか、後陣痛やこんな痛みを経験したことがありません。
処置をした病院が個人病院で、麻酔をかけて、私はどんな処置をしたのかわからないから余計だと思うんですけど、何となく心配で・・・。
別の病院でも診てもらった方がいいのでしょうか?

こんなコメントですみません。

投稿: けろたん | 2007.02.15 14:39

けろたんさん、いらっしゃいませ。
いえいえ、まったく遠慮は要りませんですよ、はい。

股関節の痛みの件ですが。
ブログを読ませていただいていたので、思い当たったことがあります。 それは処置の途中で麻酔が切れて、追加の麻酔を受けられたというくだりです。 多分、静脈麻酔(点滴を受けながら、若しくは腕の血管に直接注射をして、そこから麻酔薬をいれる方法)だったと想像しますが、麻酔が切れかかる時は、無意識のまま大きな力で医者の処置に抵抗している患者さんがたくさん見受けられます。 分娩処置台では股関節を開いて両足を上に挙げる様な姿勢をとりますが、何せ患者さん側は麻酔で無意識ですから、足を閉じようとしてすごい勢いで踏ん張ってしまうことがよくあります。 で、医者はそんなことされちゃったら処置が出来ないので、まず助産婦や看護師などが足を開くように手伝うのですが、それでも抵抗が強いと麻酔を追加します。 そのやり取りの間に力がかかって、一種の筋肉痛のような状態になっているのではないでしょうか。 3日経ってから痛みが出てきたことからも、そんな気がします。 もし、処置中に股関節が痛められたなら(通常では考えにくいですが)、もうその日から痛みがあって歩けないはずなので。

筋肉痛なら今日から明日くらいをピークに、その後はじわじわと良くなってゆくはずですので、今すぐ受診というのは考えなくても大丈夫ではないかという気がします。 なるべく歩く時間を抑えて、ごろごろと横になる時間を多く持ってください。(上のお子さんがおいでのようなので、そうもしていられないかもしれないですが、なるべく、ね。) 股関節を安静にして、無理に体操したりしない方がよいと思います。 それから痛みの源の乳酸を排泄するためにも、しっかり水分と栄養を摂って、トイレを我慢しないでくださいね。

あさって以降になってもどんどん痛みが増してきたり、痛みが安静時にも持続するように悪化していった場合は、整形外科に受診するとよいと思いますが、私の印象だと、たぶんそこまでしなくても治ってゆきそうな感じを受けています。 ただ、実際に診せていただいた訳ではないので、その辺りでご勘弁くださいね。 いかがでしょう?

また遠慮なく書き込んでくださいませませ。

投稿: リーボー | 2007.02.15 15:35

どうもありがとうございます。
なんだかホッとしました。
そうなんです。処置の途中ものすごく痛くて意識が回復しました。
抵抗したつもりはなくても、体が反射的に抵抗していたんだと思います。
がこがこされているときに、そう言えば看護婦さんたちが膝を押さえつけてなんか言っていたような・・・。
私、下半身は陸上の短距離をやっていたため筋肉質で、歩くのも大好きだしかなり頑張って抵抗していたのかもしれませんね(苦笑)。
よかった。
少し様子をみてみます。
どうもありがとうございました。

投稿: けろたん | 2007.02.15 18:41

そうですか。 押さえつけられましたか。(苦笑)
無意識の状態で暴れてしまうと、処置台から落ちそうになるので、押さえる側も必死なのですが、本当に凄い力を発揮されている方が多いですよ。 ・・で、ご本人は何にも覚えていないので、そのギャップが妙な感じです。 朦朧とした中で凄い内容のことを叫んでいた方もありましたね。 おしとやかな奥様でしたが、学生の頃にヤンキーさんだったらしく、ご主人にも隠し通していたのに、「テメー、このやろう!!」なんてドアの向こうにまで大声が響いてばれてしまったとか。 冗談のようなことも思い出されます。

麻酔がなかったら相当痛い処置ですから無理もないですし、緊張するなって言うほうが無理ってものです。 病院なんですから、恥ずかしいことではないんですよ。

子宮収縮剤は内服しておられますか? 骨盤近辺の痛みに対して敏感になっているかもしれませんね。 徐々に身体も心も、元のペースに戻ってゆくと思います。 どうぞ無理をなさらずに・・。

投稿: リーボー | 2007.02.15 21:33

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