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2007.08.05

混合病棟にて「システラ」を想う

社会人になってすぐに勤務していた時代の、私の直属のボスは、日本におけるターミナルケア(死に向かう状況にある患者へのケア)の第一人者と呼ばれていた、年老いた修道女だった。 勤務場所が違ったから、毎日顔を合わせたりする事は無かったのだが、定期的に彼女を囲む勉強会(実際にはもっと気楽な茶話会のような雰囲気だった)が催されたり、書類に上司の印鑑をもらう際など、なんだかんだとお世話になって、彼女の考えに触れる機会も少なくなかったと記憶している。

その彼女がいつも言っていたことのひとつに、次のような内容がある。

「死を目前にした時期にある患者こそ、混合病棟で看るべきです。 私は個人的には、ホスピスのように、そういった患者たちだけを集めた病棟運営をするべきではないと考えています。」

彼女が修道女であったという特異性が、この考え方に含まれていることを、加味しなくてはならないと思う。 キリスト教においては、「死」は「永遠の命への入り口」であり、全面的に悲しむべきものでもなく、どちらかといえば「大きな喜び」とか「希望」という意味合いを持たせている。 彼女は、死ぬことも人間が通過すべき自然の経過のひとつにしか過ぎず、特別の扱いをするのではなく、それを本人も、周囲の人間も、自然に受け入れなくてはならない、と言いたかったのではないか。 「死」をタブー視すべきではない、と。 特別扱いするべきではない、と。

過日に入院していた病院では、混合病棟状態で過ごした。 一応設備的には、分娩室や新生児室、授乳室もある産婦人科病棟だったのだが、実際には妊婦さんや産褥婦さんの他に、内科疾患等の患者さんがたくさん入院していたようだったし、救急車で運ばれて来て、そのまま入院となる患者さんもあった。 だから、廊下から聞こえてくる音も、赤ちゃんの心音を捕らえたドップラーの、くぐもったボワンボワンという音もあれば、どこかのお年寄りに付けられた心電図モニターの音もあるし、お腹が空いた新生児の泣き声だったり、それこそ今まさに生まれたてのオギャーという声だったり、「おーい!!」と看護士さんを呼ぶおじいちゃんの声だったり・・本当に様々だった。 はっきりと知らされたわけではないが、亡くなった方もおいでだったようだ。

そんな環境の中で、たった数泊してきただけなのに、様々なライフステージの方が入院していることが、まさに肌で感じられて、いろいろと感じることも多かったように思う。 生まれ来る命、逝く命、それを見守る人々、お世話する仕事人たち。 皆それぞれで、でも、同じ人間で、その多様性の混在こそが人間の社会そのものなんだという気持ちになった。

昔ボスが言っていた言葉の意味を、ようやっと感覚として理解できたような、そんな気になって帰ってきた。 近いうちに彼女の著書を、もう一度読み直してみようと思っている。

彼女の名前は「寺本松野(てらもと まつの)氏」。 ナイチンゲール賞などを受賞したが、もう既に昇天している。 修道女だったから、「シスター寺本」なのだが、私たちは皆、親しみを込めて省略し「システラ、システラ」と呼んでいた。

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コメント

リーボーさん、入院されてたんですね。
もう大丈夫ですか?
どうぞお大事になさってください。


シスターの
「死は永遠の入り口」
というお考えは、愛する人との永遠の別れを迎える人にとっては大きな救いになるでしょうね。
それから、私達生きてる人たちにとっても。

私も切迫早産での6ヶ月もの入院生活では、多くの人との出会いがありました。ある意味、社会の縮図であったような・・。
医者や看護士さんは神様のようでした(まさに白衣の天使)。


投稿: のんの | 2007.08.06 00:06

のんのさん、いらっしゃいませ。
ええ、もうすっかり「自分らしく」しております。
ご心配いただき、ありがとうございます。

生命そのものを扱う(?単語が不適切かな、と思いつつ書いています。)現場においては、特に、「死」をどう捉えるかが大きなポイントになり、時によっては、その捉え方のズレが現場に混乱をもたらす場合があるような気がします。 例えば完治不能な病状告知や延命治療の賛否など、ひとりひとり考え方が違いますので、難しいですよね。

6ヶ月も入院生活を余儀なくされると、どっちが自分の家か判らなくなるような錯覚に陥ったりしませんでしたか? 私、夜中に物音で目覚めて、「あれっ??ここは何処?!」と焦る事が数回ありました。(笑) 切迫早産の安静って、時間を持て余してしまって辛いですよねえ。

プロの仕事人達には本当に頭が下がる、というのが、正直な気持ちでした。 ありがたや~!、です。 

投稿: リーボー | 2007.08.06 07:32

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