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2007.12.07

お盆

・・と言っても、御先祖様の霊魂が帰ってくる方ではなくて、食べ物を乗せて運ぶ為の板のようなものの方。

看護学生時代の学校や実習病院は、経営母体が修道院で、各病棟の師長も修道女たちだった上、全寮生活で寮母も、当然学長も修道女だったので、専門的な学業の他に、「花嫁修業」に近い生活全般において教育を受ける場面が非常に多かった。(今から思えばありがたいことではあったが。)

ある時、内科の病棟で実習をしていた際、ナースコールで患者さんに呼び出された私は、「薬を飲みたいので、水を持ってきて欲しい。」と、頼まれた。 当時はナースステーションの傍に冷水器があって、「薬を飲むための水は、苦味や匂いを緩和させる為に、冷たい水を用意してあげる」のがお決まりになっていたので、はいはいお安い御用とばかりに、コップに冷水を汲んで病室まで運んでいた。

コップを片手に廊下を歩いていたら、後から早足の足音が近付いてきて、いきなり私の実習服の襟足を摘み上げると、「ちょっと待ちなさい!」 師長さんだった。

「そのお水、何に使うの?」 ナースコールで依頼されたことを告げると、「じゃあ、患者さんが飲むのね。 人に差し上げる飲み物や食べ物を、直に持って運ぶなんて、ナンセンスで失礼なことだと思わないの?あなたは・・。」 私も無知だったから、正直なところ、何を指摘されているのか判らなかった。 「コップに布巾やラップをかけて運べば良いでしょうか?」 師長は呆れて言った。 「まったく今時の若い人は、そんなことも判らないの! あのねえ、飲み物や食べ物を運ぶ時には必ずお盆に載せて運ぶのが礼儀よ。 特に相手に差し出す物ならば当然でしょ!!」

寮に戻ってから今日はあんなことがあった、こんなことで注意されたみたいな話を同級生とする中で、私がこの事を話すと、みんな一斉に驚いてびっくり仰天。 「ここは中世の貴族の館か?!」 さすがにこの件はインパクトがあったので、それぞれの頭の中に強烈に焼き付けられ、翌日から病棟で飲み物を運ぶ際には、例え缶コーヒー1本でも、しっかりお盆を使う姿が行き来するようになった。

流石に今では、病院でもそんな専門外のことで、襟足を摘み上げられるようなことは無いだろうけれど、家の中でも私がお盆を使う癖はしっかり残っている。 自分の為にひとり分の食事を整える時にも、なんとなくお盆を使わないと落ち着かない。 多分、心の中の儀式みたいなものなんだろうな、と、思う。 何も判らずに常識として叩き込まれた所作の中に、食べ物への感謝とか、差し上げる相手を大切に思う気持ちみたいなものが含まれていたことも、今となっては理解できるのだ。

頭より先に体で覚える、形から入る、そんなことも、時と場合によっては必要で有効なのかも知れない。

お昼ごはんの丼をお盆で運びながら、そんなことを思い出した。

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コメント

それは、素敵な習慣ね。

我が家でも実行しようかな。。。

投稿: かおる | 2007.12.07 20:06

かおるさん、こんにちは。
缶入り飲料やペットボトルなんかがお盆に乗っているのは、ちょっと妙な印象ですけれど、茶托の上の煎茶とかカップとソーサーとか料理の類は、お盆で運ぶと「しゃんと背筋が伸びる」感じになって粋なものです。

所作もケースバイケースですね。「身に付いているけれど意識してやらない」ことは可能な一方、「身に付いていないと、やろうと思ってもできない」・・この差は大きいように思います。

投稿: リーボー | 2007.12.08 15:44

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