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2008.01.31

うぐいす餅

和菓子屋さんの店先に貼られていた「桜餅」の文字に魅かれ、初めてのお店に足を踏み入れたら、残念ながら期待していた道明寺タイプのものではなくて、和風クレープのような焼き生地にこしあんを包んだタイプだったので、内心「ありゃりゃ、残念・・」と怯んだ。

気持ちを切り替えてガラスケースの中を眺めると、色鮮やかなうぐいす餅を見つけたので、二つだけ包んでもらう。 オーソドックスな餅とあんこときな粉の組み合わせはありふれたものだけれど、きな粉の淡い緑色がなんとも優しげで春らしい気がして、私の好きな季節菓子のひとつだ。

「ちょっとの買い物ですみません。」 「いえいえ。 最近はみんな老人世帯になってしまって、この辺のおばあちゃんたちも一個だけ買いに来ますよ。」 建物は古くて今風の洒落た印象ではないのに、引き戸を開けると意外にも間取りが立派で、羽振りの良かった時代もあったことを思わせる店構えだ。 「和菓子屋は四代目になります。 もう私の代で店を仕舞おうと思っているのでねえ、できることしかやらないんですよ。」と、お店のご主人はご謙遜だが、テボ餡をサツマイモに見立てて焼いたお菓子や、黒いあんこが見え隠れする吹雪饅頭、鶴の子に見立てて形を整えたすあまなど、ちゃんと手のぬくもりが見えるシンプルなお菓子が行儀よく並べられている。 「うちのうぐいす餅にはね、えくぼがあるんですよ。」 掌に一つ載せて見せてくれたうぐいす餅、角の丸い菱形のように整えられた横腹に二つ、確かに小さな窪みができている。 「親指と中指でちょっとだけ押さえるようにすると、こうなる。 鶯のふっくらとした感じが出て、可愛いかな、と思ってね。」 少し照れくさそうに笑うご主人の大きな掌から、昔ながらの薄い包装紙で手際よく包まれた二羽の鶯を受け取った。 二百円。

ぱらぱらと音を立ててあられのような雪が降る今日、朝から「農薬入りの餃子」のニュースが駆け巡っている。 熱いお茶を淹れて包みを開いた。 シンプルな美味しさが、ちゃんとそこにはあった。 『ますたあ』にえくぼの話を伝えながらの午後のお茶。 今までにも増して、何故だかとても春が待ち遠しい気分になった。 ちょっとしたものであっても、人の温もりがあるものはちゃんと美味しい、そんな単純なことが妙に嬉しく思えた。

春が来たら、あの目立たないお店に、また買いに行こう。 華美じゃない、ご主人の手の温もりがある穏やかな和菓子を、分けてもらいに行こう。 

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コメント

厳冬の頃に出会う優しい味は
心を綺麗に暖かくしてくれますね。

リーボーさんの文章を読んでいて気がつきました。
春がそこまでやってきています。

投稿: クッスィ~ | 2008.02.01 12:20

クッスィ~さん、毎日寒いですね。 お変わりありませんか?

寒さで心まで凝り固まってしまっていたような日々の中、どうしてか和菓子屋さんでのちょっとした会話で、何かがほぐれたような気分になりました。 お菓子の甘さ、お茶の温かさ、そんなものも重なって、余計にそう思えたのかもしれません。

もうすぐ立春・・暖かな季節が待ち遠しいです。

投稿: リーボー | 2008.02.01 15:27

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