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2008.12.10

贈りもの

今日は通りかかったお店で、クリスマスに使うのだろう、誰かの為に選んだ商品をきれいにラッピングしてもらっている様子の女性を見かけ、なぜか源氏物語の一場面を思い出した。 ずいぶん前に読んだ源氏物語の中で、今でも最も印象に残っているのは、贈りものを題材にした場面だ。 確か「玉蔓(たまかずら)」という段だったのではないかと思う。

中年の域?に至って本妻である「紫の上」とつつがなく平穏な生活をしている「光源氏」が、お正月に側妻達の元へ届けるプレゼントの着物を見立てている。 平安時代にはお正月に目上の人が着物や装束、反物などを授ける慣習があったらしく、別に女性への贈りものに限った話ではなくて、「源氏の君」もよく帝(みかど)から装束を賜わったりしている。 で、昔は着物の色合わせでお洒落のセンスを競っていたらしいが、「紫の上」は子供の頃から趣味が良い上に「光源氏」が手塩にかけて教育を授けたので、黙っていても旦那さんの為に用意しておいた着物や反物には間違いがなく、素晴らしいセンスがいかんなく発揮されている。 今で言うならば、会社の部下の女性社員へのホワイトデーのお返しを、奥さんが準備している感覚に近いか。 ただ、違うのは、贈る相手が仕事上の付き合いの女性ではなくて、「旦那の昔のオンナ達」であること・・。

「紫の上」は相手の女性達を知らないし、どんな人なのかを尋ねたりもしない。 旦那が「これはこれと合わせて、あの人に・・」などと選んでいる様子を見ながら、『この着物が似合うのはどんな女性なのだろう』、と、想像しているのである。 こんな高貴な紫色が似合うなら、さぞかし気品も教養も溢れる方に違いない、とか、薄紅を着こなせるのは、お年を召していてもふっくらと可愛らしくおしとやかな感じだろう、とか。 そんな場面だったと記憶している。

用意した贈りもののセンスの良さがずば抜けていると褒められて誇らしげに思ったり、嬉しそうに品選びしている旦那を見て自分まで楽しい気持ちになったりしながらも、きっと「紫の上」は嫉妬も感じている筈だ。 だけど、それはメラメラと激しいものではなくて、どこか穏やかな、愛した男性を独り占めできなかった自分と同じ身の上を相憐れむような、そんな気持ちだろうと思う。 奥ゆかしい心の動きと、お正月準備の華やいだ光景とが対照的で、とても印象に残っている。

贈りものをする相手は自分が大切に思っている人で、当然贈る相手が喜んでくれそうな品物を考える。 それは今も当時と何も変わらないことで、贈る相手の身になってあれやこれや迷う。 イメージや日常生活の様子など情報を総動員して、喜んでもらえそうなものを選び出す。 迷い過ぎて面倒臭くなったりすることもあるけれど、その気持ちの動きこそが、きっと一番のプレゼントなのに違いない。

クリスマスも近づいてきた。 品物のやり取りに関わらず、いろいろな人の為に心を動かして準備をしたい。 心を動かすことは、祈ることにきっとかなり近い。 

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