特発性内耳障害
浜崎あゆみさんが特発性内耳障害で片耳の聴覚を失っていることを告白した、というニュースが、いたるところで取り上げられている。 私も同じ病気、同じ状態なので、なんだか他人事でない気持ちでニュースの行方を追いかけている。
「特発性」という単語は、一般的に言い換えれば「現在の医学では原因が絞り込めていない」ことを指す。 つまり、「なんだか判らないけれど内耳がやられている」、ということ。 ストレスとの因果関係は以前から指摘されているけれど、ストレスが多い人がみんななるという話でもない。 主治医によって、特発性内耳障害という病名になる場合もあれば、メニエール(氏)病と言われたりもするし、状況によってはその前に蝸牛型とか余計な単語がくっついたりもするが、どれもみな原因が判らず、「これをやれば治る」という根治療法が確立されておらず、悪化してゆくケースもあるし繰り返して起こる場合もありうる点では一致していて、病名に係わらず病態もほぼ同じと考えてよい。
内耳というのは、鼓膜の奥にあるカタツムリ型の器官で、感覚器官としていくつかの役割を担っている。 ひとつは「音の情報を受け取って脳に伝えること」、もうひとつは「平衡感覚を感じること」、最後は「回転運動の加速度を感じ取ること」。 なので、ここをやられた状態が悪化すれば、「聴覚障害が出る」「眩暈が起きる(床と天井がぐるぐる回るような回転型のめまい)」ことにつながる。
内耳の中にはリンパ液が満たされている。 このリンパ液が何かの理由で増えてしまい、内側からぱんぱんに膨れると、当然内圧が高まり、その結果繊細な神経がダメージを受けてしまう。 これが「内耳がやられた状態」な訳だ。
一番最初に異常の自覚を感じるのは、耳がぼんやりした感じ(耳に水が入った時の様だったり、トンネルや飛行機の離着陸の際の耳の閉塞感にも似て、耳に綿を詰められてような感じ)、耳鳴り、めまいなどが多く、この最初の段階では「回復させるために有効な治療法」がある程度確立されているので、ここでちゃんと耳鼻科医の診察を受け、適切な治療を受けることが、何よりも大事になる。 めまいが起きれば驚いて、たいていの人は受診するのだが、耳がぼんやりするだけでは、日常生活への影響が少ないので、そのまま受診せずに様子を見てしまう場合が多く、そうこうしている間に手遅れになってしまう・・そこが問題なのだ。 副腎皮質ステロイド剤や利尿剤(尿の量を増やすことで、体内の余計な水分を抜く。)、ある種のビタミンや血液の循環を良くする薬などと共に安静を強要されたりするが、症状を自覚してすぐに受診すれば、多くの人はとりあえず元の状態に戻ることが出来る。
その後は、再発の予防ということになる。 投薬など医師から指示される治療の継続はもちろんだが、自分で自分の生活を見直すことも大事だ。 症状が出たという事は「体がSOSのサインを発した」という意味なので、働き方や食事・睡眠などの習慣を見直したり、心理的に自分にストレスを与えるような癖が無いか、見直す良い機会を与えられたと思って、チェックして出来るだけ改善する姿勢が大事。
それでも、どうしても症状が繰り返し起きたり、治らない場合もあって、そうなると繰り返す度に残念ながら聴力は少しずつ落ちてゆく。 これは「本人が何をした、何をしなかった」のレベルを超えて、そういう病気なのだから仕方ない。 それでも、その頃には病気との付き合い方が判ってくるものなので、それなりに工夫できる点も体得できるように思う。
浜崎あゆみさんは、あれだけ忙しく活躍しておいでだったから、初期の段階で受診の機会を逃してしまったのかもしれないし、安静がどれだけ確保できたのかも判らない。 お気の毒なことだ。
でも、私も片耳の聴力はほとんど無いけれど、とりあえず日常生活に不便は感じない。 頭蓋骨を通じて反対の耳で聴いて補っていたり、健常な耳が以前に比べて敏感に反応して、脳の中で補正回路をかけているらしい。(おかげで急に大きな音に接すると、必要以上に驚いて飛び上がったりするのだが。 例えば風でドアがバタン!と閉まる音とか、他人に近くで急にくしゃみされたりはかなり苦手。) 彼女は歌手なのでモニターの使い方などそれなりに工夫は必要とされるだろうが、やりようによっては何とかできるのではないだろうか。
たいていは片耳だけで済むことが多いものの、稀に両耳に起きる場合もあると聞く。 仕事の忙しさが仇にならないように、工夫しながら、歌手生命を無駄に縮めるようなことのないよう、祈りたい気持ちだ。
経験者として、ひとつだけもう一度強調させて欲しい。 みなさんも耳がぼんやりすることがあったら、とりあえずなるべく早く一度耳鼻科を受診して!!
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