2012.12.05

みっちり

大阪は建物がびっちりしている、・・・という表現では伝わらないだろうな。 隣の建物との隙間が狭い。 敷地ぎりぎりまで壁を作る、とでも言えばいいだろうか。

例えば、都内の住宅地だと、「お隣さん」との間には、植え込みや腰の低いブロック壁なんかの境界引きはあっても、その自宅側には自転車一台が通れるようなプチ通路、プチ庭のような隙間があって、玄関先から勝手口に行けたり、ちょっとした物置スペースになっていたりするのだけれど、そのゆとりがあまり見かけられない。 だから、家の壁がお隣との境界引きを兼ねている様な、そんな風にも見える。

その代わりといっては変だが、玄関前スペースは都内のそれよりもゆったり作られていて、狭くても植栽や駐車スペースのデザインなど、凝ったものが多い気がする。

家具やインテリアを扱うお店もたくさんあって、いつ行っても結構な人数のお客さんが店内で物色しているし、扱っている家具そのものも、絶対必要なもの、というよりは、リビングを充実させるためのものが目立つ。 例えばドが付くくらい大きな革張りソファーだとか、美術性の高いテーブルのセットだとか。 大抵は一部屋全体のトータルデザインで提案されているような売られ方をしていて、私のような者にとっては、「こんな大きなもの、どこに置けと言うのか!!」というような代物・・それがまた、どう見ても、ちゃんと売れているような扱われ方をしているからすごい。

確かに街区によっては豪邸揃いの場所もあって、ああ、あのソファーはこういったお宅にあるんだろうな、などと思ったりもするのだが、やっぱり、大きな家も大きな家なりにみっちりとしているのが、ちょっと可笑しかったりもするのだ。

家の中で過ごす時間を大切にしたり、そのためにお金をかける人々なのかな、と、思いながら見ている。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2011.05.29

たまには一人旅 その6

吉田川にかかる「宮が瀬橋」の袂にはお団子屋さんがあり、その奥はオープンカフェのような形で、ソフトドリンクなどを楽しめるようにもなっている。 水面を渡ってきた風に吹かれて汗を引かせつつソフトクリームを食べて、昨日の夕方老夫婦に教わったようにもう一度お城を見上げた。 町、それから、町の人々、見聞きした全ての光景を、心の中に焼き付けるような気分で。 今日も良い天気、そして、本当に暑い。 ちょっと移動して、最後にもう一度、丸い喉越しの冷たい水を汲んで飲む。

帰りは、オープンカフェの横から川沿いの遊歩道に降りて、国道方面に向かって歩いていった。 カバンはずっしりとしているが、良い気持ち。 川面には鷺の姿があって、鮎でも狙っているのか、じーっと動かずに佇んでおり、まるで絵のようだ。 木陰のベンチで本を読んでいる人、犬の散歩をしている人、緩やかなひと時。 立派な市民病院の近くから巡回バスに乗って、高速道路のインターチェンジの傍まで。 そこからはまた歩く。 高速バス乗り場までの途中にヤマト運輸の営業所があったので、暑さのせいにして立ち寄り、小さな紙箱を買ってその場でカバンの中身を詰め替え、配送手続きをしてもらった。 明日の午前中には届いてしまう・・便利な世の中。 最後の関門は長い登り階段で、息を弾ませながら高速道路に面したバス乗り場へ。 こりゃあ、お年よりにはキツイだろうなあ。

高山から来たバスには思っていたより人が乗っていた。(ちなみに、郡上八幡からの乗客は私ひとり。 で、しかも、最後の乗客だったみたい。) フランス語を話す若い女性が二人、前方と後方に分かれて座っていて、ヤマザキの「ふんわり食パン」を袋ごと渡しに行ったり返しに行ったりしているのが、妙に印象的だった。 あれはお昼ご飯だろうか?

多分家に帰っても夕ご飯を作るのが面倒だと予想されたので、名古屋駅で調達してゆくことに。 もちろん、「天むす」と「味噌カツ」と「手羽先」の名古屋三点セット。 新幹線改札のすぐ近くの駅構内に、なんと、あの「世界の山ちゃん」の支店があるのが素晴らしい! 立ち飲みも魅力的だったが、時間が無いので泣く泣く我慢する。 その代わりホームの売店で缶ビールを一本買ってから上りの新幹線に乗り込んだ。 誰にという訳でもなく、缶ビールのプシュッという音に遠慮を感じながら、何故か「家を出てから家に帰るまでが遠足です」と、言われた、小学校時代の先生の台詞を思い出して、可笑しくなった。 気がつくと、ずーっと歩き回っていた感のある旅行・・疲れたけど、思い切って出かけて良かった。 (おしまい)

今回のお土産

●大黒屋 「郡上地みそ」 ・・『ますたあ』がこのお味噌で私が作った味噌汁を飲んでひとこと、「凄い香り! こりゃあ子供には無理かも。」 今時こんなお味噌があるのかというような味と香り。 大豆と大麦の赤味噌系。 塩分もしっかりなので量は少なめに使っていますが、それでも十分に強い香りです。 材料の大豆がごろごろとそのまんま残っています。 私は楽しんでそれも食べちゃってますけど、懐かしの「味噌漉しざる」が必要なタイプ。 ちゃんとしたお味噌は多少煮立てたからといって、そんなに簡単に香りが飛ぶもんじゃないんだ、と、学ぶ気分。

●明宝特産物加工株式会社 「明宝ハム」 ・・以前に比べて脂も塩分も控えめになって、今風になりましたね。 でも、やっぱりどこか懐かしい味がします。 最近は「明宝ケチャップ」も人気があるみたい。 重たかったですけど、抱えてきた甲斐があるというものです。 そのまんまスライスするだけで、ビールのお供にぴったり。

●御菓子司両月堂 「郡上松風」 ・・味噌風味の和風カステラみたいな御菓子ですが、味噌の香りと表面のポピーシードの芳ばしさが絶妙! こんな美味しい松風は初めて食べました。 松風を見直しちゃった感じです。 ちゃんと作ればちゃんと美味しいお菓子だったんだなあ、松風って、と。 お年寄りにも喜ばれそう。 (ちなみに郡上八幡のお饅頭、大福系は何種類か味見してみたのですが、残念ながらどのお店のものも「あんこ」が私の好みではありませんでした。)

●桜間見屋 「黒肉桂」 ・・シナモンをまぶした黒砂糖の飴玉。 郡上八幡の方は「有平糖(あるへいとう)」と、呼んでいるようです。 どこにでもあるような、想像されるまんまの味の飴なんですけど、どういう訳かとっても美味しいです。 手作りがポイント? 今どき飴を手作りしているお店は少ないですよね。 ちなみに店舗では飴数種類の他にお菓子も扱っていらっしゃいました。 有名なお土産みたいで、いたる所に看板が出ています。

他に手ごろなお土産としては、いくつか点在している「食品サンプル工房」(場所によっては体験も可。)のストラップなど。 200円くらいから面白い物が買えます。 若い人たちが喜んでたくさん購入していました。 選ぶのも迷うのも、見ているだけでも楽しい!

(あくまでも個人的趣味の上では)「日本酒」と「あんこ」以外はとても美味しい町だったという印象です。 水の良さが決め手なのでしょうか。 ただ、お昼時を過ぎるとお店が閉店してしまったり、夕方も早くに店じまいする所が多い様子ですので、ある程度は計画的に。 ちなみに町の中心部にはコンビニはありません。 「ちょっとつまむオヤツ」のようなものを扱うお店はたくさんあります。 清水も飲み放題ですし、ね。

有名なガイドブックなど読みますと、たいてい「郡上八幡は2~3時間ぐらいの観光で、高山や白川に移動して宿泊」みたいなパターンが紹介されていますが、「ゆっくりのんびり歩き回ってこその町」、と、強く思いました。 駐車場も多くないですし、細かな路地が良い感じなので、できれば国道や駅の近くに車を置いてきて、じっくり歩くことをお勧めしたいです。

町屋は建物がびっしりしていますし、細い路地で玄関先や庭先を通ることも多いので、是非とも「通らせていただく」「見せていただく」という気持ちで。 挨拶とまでいかなくとも、軽く会釈して歩けば、町の人たちはフレンドリーに色々と話して教えてくださいます。

町のつくりは複雑ではなく、道標も整えられていますし、お城の方角や中心を流れる吉田川を目安にしてゆけば、方向音痴を自称する方でも心配は要りません。 きれいな公共トイレも要所に整えられていますし、座って休む洒落たベンチもたくさん用意されています。 ・・でも、夏は相当暑そうだなあ・・。   

| | コメント (2) | トラックバック (0)

たまには一人旅 その5

宿泊をお願いした「中嶋屋旅館」は町屋造りで坪庭もある。 ガラス窓は木枠で、窓についている鍵も、枠の重なった部分の穴に鍵を通して回し閉めるという懐かしい仕組み。 「さすがに玄関先やお風呂は新しくしてありますけれどね。 なるべく昔のまんま残そうと、がんばってます。」と、女将さん。 古いけれどちゃんと手入れされていて清潔だ。 「昔はこの通りだって川だったんですから。」 雨が降って増水すると鯉やら鰻やらがピチピチ跳ねて道に出てきたり、幼い子供が流されたりしたのだそう。 「『おどり』に夢中になってね、川にはまって、浴衣のすそを濡らして戻ってきたお客さんなんていっぱい居らっしゃいましたよ。」 30年位前にさすがに車社会の波に逆らえなくなって、道路にしたのだそうだ。 勿体無いなどと思ってしまうのは、ここで暮らしていない者の我侭だろう。

嬉しいことに、朝ごはんにはちゃんと「明宝ハム」も添えられている。 昨日のオジサマに習ったのだが、この辺りの食事処には「明宝定食」なるメニューが存在しているらしい。 「豚しょうが焼き定食」の野菜部分、つまりキャベツのざく切りに斜め切りのキュウリの薄切りを数枚立てかけて櫛形切りのトマトを添えたもの、そこに「明宝ハム」の厚切りスライスを並べて、マヨネーズをポトッと。 それとご飯とお味噌汁とちょっとの漬物、だそうだ。 みんないったいどれだけ「明宝ハム」ラブなんだ?! (いや、私も好きですが。) 「明方ハム」について聞いてみると、「あ、あっちはね、ソーセージ。」だそう。 自治体の第3セクターが作っているのが「明宝ハム」で、JAが作っているのが「明方ハム」とか。 ややこしや。

ゆっくりと過ごしてお支払いを済ませる。 手荷物を引き続き預かっていただけるとのことで、ありがたく甘えることに。 「今日はどちらへ?」 「今日は川のこっち側を回ってきます。」

吉田川の南サイドは、またちょっと雰囲気が違って町民みなさんの普段の生活の匂いが身近に感じられる。 水路も生活に密着した印象で、泥の付いた野菜をジャブジャブ洗っていたり、ちょっとした洗物をしている場面にも実際に出くわす。 「ちょっと見せていただいても良いですか?」 「なぁに~? ただ洗ってるだけよ。 蕗を切ってきたから。 それでも良いならここに降りていらっしゃい。」 階段が至る所に設えてあって、お店や家の玄関先、勝手口や小道から川面に降りられるようにされている。 「まさか本当に使っていらっしゃるところを見られるとは、実は思っていませんでした。」 「(使う人も)減ったけどね、泥を落とすのは家の外で済ませた方が便利だから。 それでも結構みんな使ってるよ。」 ちょっと羨ましくなる。

有名な「いがわこみち」には物凄く立派な体格に丸々と太った鯉がわんさか泳いでいて、なおも観光用に「鯉のえさ」が無人販売されている。 こんなに大きくなっているのを目の当たりにしてしまうと、さらにエサをあげるのにも躊躇し、結局見ているだけとした。 水の流れは相当速いので、そこで生きてゆくにも体力は必要なのだろうけれど、差し引いてもちょっとメタボ気味か。 幼児のお子さんを連れた若いお母さんと立ち話をして、水辺の木陰を楽しませてもらった。 毎日通るのにやっぱり子供は動物が好きみたいで、飽きずに「おさかなさん、おさかなさん!」と毎回大はしゃぎなのだそうだ。 ここに来ないと機嫌が悪いらしい。

これまた有名な「某お寺の庭」は新緑がすばらしく、水琴窟の音も涼しげ。 だったのだけれど、ご本堂でオリジナルのお香だのお数珠だの、仏教の入門書だの、絵葉書だの、たくさん並べて売っていて、なんだか興冷めしてしまった。 何もご本堂の中で、ご本尊の目前で売らなくても、どこか別の場所は無かったのかな、と、余計なことを思う。

こじんまりした美術館や、古い建物を展示室として見せている場所、それにお寺の庭、藍染の工房、飴屋さん、駄菓子屋さん・・全てがどこかで見たセットのようですらある。 それに相対して、現代風の、ジェラートのお店や食品サンプルの工房、観光客相手のお店などが、また自然に混じっていて、今自分がいつの時代に生きているのか分からなくなってしまうような、不思議な感じ。

宿の荷物を引き取ってから、昨日教えてもらったお蕎麦屋さん(この町の中では新顔のお店だそう。)で、開店と同時に早めの美味しいお昼をいただき、例のお味噌屋さんへ。 店先へ足を踏み入れた途端に、湿っぽいしょっぱい香りが充満していて、いかにもという感じだった。 本当の名前は「郡上地みそ」というらしい。 「たまり」も非常に魅力的だったが、重たそうだったので躊躇する。 そのうちに通信販売で買ってみよう、と、諦めて自分を納得させた。 別のお店でお決まりの「明宝ハム」も一本買い、急にずっしりと重たくなったカバンに怯んだ。 (つづく。 あと一回で終れるかな?) 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011.05.28

たまには一人旅 その4

そろそろ夕方。 タクシーの運転手さんに教えてもらったように、気温変化にも注意しなくては。 さすがに歩き疲れたので、吉田川の南サイドにある今夜の宿の方向へ向かう。

途中、橋の欄干で立ち止まって川を見下ろしていると、杖を突きながら散歩している老夫婦に声を掛けられた。 「ここは川もきれいだけど、ほら、ここからのお城の眺めも良いですよ。」 「あっ本当だ。 下ばっかり見て気付いていませんでした。」 「いつも通りながら見上げてるんです。」 山の上にはお城がきれいに浮かび上がっていた。 てっぺんのジャチホコが夕日を浴びて金色に輝いている。 「あっちの通りは『郡上おどり』の通り道。 夜通しだから寝てられゃしません。」 口ではそう仰るが目は笑っている。 『おどり』にはお子さんがお孫さんたちを連れて毎年帰ってくるのだそうだ。 「もうすぐで楽しみですね。」と言うと、「楽しみ半分、疲れるの半分。」 「(来ていたお孫さんたちが)帰るとがっくり疲れが出て、去年は寝込んじゃったっけ、なあ。」とのこと。 それもお祭りのひとつの顔なんだろうな。 「じゃあ今度は気をつけないと。」 「ははは、おおきに。 どうなることやらですわ。 また寝込むのとちがうかな。」 郡上八幡の人たちの言葉には、関西弁、それも京言葉が微妙に混じっているようだ。 お店でも何度か「おおきに。」と言われたのを思い出す。

宿は「夕食無し」での予約だったが、お昼が遅かったし、散歩の途中でつまみ食いや試食・試飲などもしたのでお腹が空いていない。 とはいえ、何も食べないのもちょっと不安だ。 どうしようかなと迷う。

宿のある通りは古い商店街といった雰囲気。 ここでも両側の側溝には水がこんこんと流れ(さすがに蓋をしてある。)、店先に深めの堀を作って錦鯉を飼っている?泳がせている?所も多い。 歩いてみると、定食屋さんと居酒屋さんの中間ぐらいに見えるお店が、ちょうど夜の営業を始めるところで、女将さんが引き戸に暖簾を掛けていた。 そうだ、ビールでも飲みながらちょっと何か摘んで夕食の代わりにしようと、早速入る。 が、実はご近所の常連さんらしきオジサマが二人、もう呑んでいるではないか。 「驚いたでしょう。」 「ここはもうひとつの家みたいなもんでね。」 ・・なんだか凄くアットホーム。

それなりに緊張して入店したけれど、最初の生ビールが空く頃には、何故か既におつまみをシェアする間柄に。 「ここに来たら食べていかんと!」と、強烈にプッシュされた『鶏ちゃん焼き』。 赤味噌風味の鶏野菜炒めみたいな感じで、とても美味しかった。 鶏肉は焼く前にタレに漬け込んであるとのこと。 で、タレの調合は秘密なのだそうだ。 鶏肉から余分な水が抜け、肉の味が濃くてぐっと締まっている感じ。 野菜は何でも良いが、キャベツとタマネギは入れたほうが美味しくなると教わる。 そのうちに真似してみよう。

(残念なことに地元の酒蔵二箇所の日本酒は、どれも私の好みではなかった。 旨みが濃すぎる感じで重ため。 まあこれについては様々なお好みが各自におありだろうから、あくまでも個人的な私感ということで。)

オジサマ方が明日のお昼ごはんはどうするの?、と、聞くので、今日食べ損ねた鰻にしようと思う旨を話すと、お店の女将まで皆一様に冴えない顔をする。 はっきりとは言えないがあまり薦めないといったニュアンス。 「じゃあ、お蕎麦にでもしようかな。」、と、切り替えると、それならば!とばかりに地元で評判のお店をいくつか教えてくれた。 手持ちの地図にまたプロットが増えた。 薦めない理由も気になったが、深く突っ込まずに素直に従うことにする。 色々あるんでしょう、きっと。

一時間強も居ただろうか。 まだまだ「夜はこれから状態」のオジサマ方に見送られ、宿へ。 風も冷たくなって冷え込んでいる。 運転手さんの話、本当だ。 暖かな宿の玄関に迎えられ、「ゆっくり歩いていらっしゃいましたね」と、女将さんの笑顔に迎えられて漸くチェックイン。 小さいけれど清潔感満点のお風呂で温まったら、どどどっと疲れが出た。 良く歩いたものなあ。 軽くストレッチをして22時には就寝。 羽毛布団が用意されたので、さすがに暑いのではとの心配するも、結果としてはちょうどいい塩梅だった。 恐るべし気温差。 (つづく)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011.05.27

たまには一人旅 その3

水は飲んでいても、お腹は空く。 そろそろまともな食事をしておかなくては、と、思って時計を見るともう14時も近い。 町歩きのルートを考えて無駄を少なく、それに、時間をあまりとられないようにと、近くの「流響の里」という施設を覗いて見たら、2階に広いレストランがあったのでそこへ。 何はともあれ生ビールを頼んでクールダウンしながら、「朴葉味噌の定食」を。 旅館で使うようなパーソナルなコンロの上で朴の葉に乗せた味噌、上に乗せたたっぷりのマイタケ、長ネギ、豆腐などを焼き、混ぜながらいただく。  残念なことに朴葉の香りは少なめだったが、しょっぱい味噌の加減が汗をかいた身体に心地良い。 朴葉味噌に飛騨牛を追加した定食もあったけれど、風と水で清められたような気持ちだったので、精進っぽく軽めにした。 

秀逸だったのは添えられたお味噌汁で、「朴葉味噌」とは別の、赤味噌に近い味噌が使われており、凄く香り高いのだ。 お茶を運んできてくださった従業員のオネエサンを捕まえて尋ねてみると、「ちょっと奥で聞いてみます」と、引っ込んでしまった。 待つこと暫し、「『郡上味噌』だそうです。」 「この辺で手に入りますか?」 「お土産物屋さんにもあると思いますけれど、蔵元が近くなので時間があったら寄ってみたら良いですよ。」 私が持ち歩いていた地図に『この辺です』とボールペンで書き込んでもらった。 「『たまり』っていうのも造っていて、うちではお醤油代わりに煮物に使ったりもします。」 ほほぅー良いことを伺いました。

レストランの下、施設の一階はお土産物や地元産品を扱うお店になっていて、「食品サンプル作り体験」などもできるらしい。 明日帰る前にちゃんと覗いてみるのも良いかな、と、思いつつ、一周してみると、実は観光客相手の商売としてのみならず、地元の方々が普段の食事に使うようなパックに入った生肉や魚、八百屋代わりの野菜や惣菜なども並べられており、あれあれ??と少々驚く。 確かに町を歩きながら、「この辺りの人は普段どこで買い物をしているのかな」、と、心配になるくらいに、『普通の』お店が見当たらなかった。 ははあ、こんな風にミニスーパーマーケットも兼ねてしまうとは、なかなかすばらしいアイデアだと関心した。

有名な「明宝(めいほう)ハム」の他に「明方(めいがた)ハム」という良く似た商品が並べられており、そんなのもあるのか?!と、驚いたり。

お腹も落ち着いたところで、また町歩きの続き。 のんびりと丁寧に楽しみながら、途中で「郡上八幡博覧館」へ。 町の歴史や自然、生活、産業、文化など詳しく知ることができて、小学生の生活科見学にもってこいの感じ。 特別展スペースには、居た居た、お城で見たあの「働く雛人形たち」! 本当のタイトルは「雛人形の日常」だったようで、反物を織ったり縫ったり、掃除していたり、家族でくつろいでいたり、皆で踊っていたり、勉強していたり・・様々な「体(てい)」で作られた展示はユーモラスだ。 中にはパーティでワインを飲みながらステーキを食べているとか、翁が4体で麻雀卓を囲んでいるといった少々悪ふざけ気味のものまであって可笑しい。 なかなかぶっ飛んだアートしていた。

順路に沿って進むと一階では、15時から「郡上おどり」の実演があるとのことで、いすに座って見せてもらう。 浴衣姿の女性が二人、小さなステージで説明をしながら踊ってくれた。 なかなか艶っぽい。 今年の「郡上おどり」のスケジュールも、もう決定されているとのこと。 きっと今年も大勢の人で賑わうんだろうなあ。 (つづく) 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011.05.26

たまには一人旅 その2

郡上八幡と聞けば、とりあえずは「郡上おどり」とおということになるのだろう。 宿にご挨拶を兼ねて手荷物を預けてからすぐに歩き出し、ふと見上げるともう白いお城が山の上に見えている。 町は吉田川を挟むようにふたつに分かれているので、片側ずつ見て回ることに。 到着はちょうどお昼時。 目をつけておいたお蕎麦屋さんや鰻屋さんの前を通って様子を見ながら、お城へと向かう。 タイミングが合えばその場で店内へ入り、食事をしてしまおうかと目論んでいたのに、どちらも店の外まで待っている人の行列ができていたので、気を削がれてそのまんまスルーした。

お城への道はちゃんと整備されており、森林浴を兼ねた様な上り坂を楽しみながら一汗かく感じ。 車は数台すれ違う程度で、道を登ってゆく人と下ってくる人ともたまにすれ違うくらいだ。 その人たちがみんな穏やかな顔つきで、マイペースに歩いている。 鳥の鳴き声や風の音だけがBGM。 日差しは強いが風は冷たくて気持ちが良い。

天守閣まで登ると町が一望できる。 風に吹かれてクールダウンしながら、手持ちの地図と見下ろす町の景色を重ね合わせて、全体のイメージを頭の中に叩き込んだ。 陽射しと風と新緑、川面の光、パーフェクト!

お城の内部には歴史的解説や主ゆかりの品々が展示されていたが、目を惹いたのは、展示品の傍に飾られている雛人形の数々だ。 お内裏様や三人官女や翁が、可笑しなことにミニ雑巾を持たされて展示品の武具を掃除していたり、刀を磨いたり、持っている箒で下を掃いていたり、展示品を指差しながら「ここです」みたいな解説をしていたり・・なんだかそれぞれの役割でお仕事をしているのである。 可愛らしいし、健気な感じも楽しい。 50体近くは使われていただろうか。 楽しみ驚きながら入城料を管理している方に帰り際に伺うと、町民の各家に眠っている不要になった雛人形を集めて、もう一度現役として働いてもらおうという『芸術的試み』らしい。 「郡上八幡博覧館」という観光スポットでは、その再就職した(?)お雛様たちの特別展も行われているという。 これは是非とも行ってみなくては。

ちなみに郡上八幡城のてっぺんには、シャチホコが乗せられていた。 別に意味も無く、何故か笑ってしまった。

吉田川の北側、お城のある方には、いかにも城下町っぽい町並みが続いている。 そして、道の両側の側溝には美しい水がこんこんと流れていて涼しげな音が響き渡っている。 凄い水量だ。 そこそこに手が加えられているのだが、建物本体は古い町並みがそのまんま残されていて、それぞれのお宅が玄関先を植栽などで飾りながら、側溝の水を使って打ち水したりして、とても丁寧に暮らして居られる様子が伝わってくる。 のんびりと歩いていると、あちらこちらから「こんにちは」と声を掛けられる。 道を掃いているご婦人だったり、子供の手を引いて散歩しているお母さんだったり、玄関先で座って日向ぼっこしているお年寄りだったり。 なんだかみんなとても余裕がある感じ。 時間の経過がゆったりしている。

初老の男性が側溝から何かを持ち上げては、パンパンと道に打ち付けるようにしているので、いったい何をしているのかと思って伺ってみると、側溝の大きさに合わせた木枠に目の粗い網が貼り付けてある。 プチ網戸みたいな物。 それが数メートルおきにあり、流れてくる藻やゴミなどが引っかかるようになっているのだそうだ。 町内には「川当番」というものがあって、この網を時々引き上げてきれいにし、水流や水質を維持しているとのこと。 「いや、僕は川当番じゃないんだけどさ。 散歩のついでだから。」と、照れくさそうに教えてくださった。 「こんだけとうとうと流れていると、ちょっとしたことで網の目が詰まるだけで、すぐに溢れちゃうんですよ。」、だそう。

散歩の途中には、清流の水を飲める施設がたくさんあり、丸く穏やかな冷たい水を飲むことができる。 「水船」(リンク先ページの下の方に出てきます。スクロールしてみてください。)と言って、3段階に木枠を繋げて水を貯め、一番目は飲み水や野菜洗いなどに、二番目は食器洗いに、三番目はその他の洗い物に使っていたのだそうだ。 歩いて景色を楽しみながら、暑くなったら水を飲む。 単純なことだが、何よりの贅沢に思えた。(つづく) 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011.05.25

たまには一人旅 その1

実は過日、郡上八幡に一人で旅行してきた。 元を辿れば冬の最中に謎の夢を見て、その夢に登場した『空を飛ぶ鯉の群れ』が「郡上八幡、郡上八幡・・」とお経のように唱えていたことに端を発する。 失礼且つお恥ずかしいことに、私はそれまで郡上八幡が何県のどの辺りにあり、何で有名で、どんな所で、どうやって行くのか、全く知らなかったのであった。 なんとなく気になって、暇があると調べたりしていたのだが、ちょうど何だか日常の生活でごちゃごちゃと重なって、「参っちゃうなあ、もう」の記事を書いた頃で、脱日常を求める気分だったこともあり、思い切ってリセットを兼ねて出かけることにした。

私の暮らしている伊豆半島からだと、とりあえず東海道新幹線で名古屋に行き、そこから内陸部へ向かうのが良いらしい。 旅行となればボケ~っとするのがもう半分の目的だから、初めから車での移動は考えずに公共機関を使う。 まあこれには、現地では小回りが利かないので車が適さないという、ウェブ上からの前情報も得ていたので、迷いはなかった。

名古屋から岐阜に行き、そこから郡上八幡の中心部まで届けてくれるバスを使うのが常套手段のようだったけれど、そのバスは一日に2本しかなくて、朝早く家を出ても現地に着くのが14時過ぎになってしまう。 長良川鉄道も相当魅力的で、片道だけでも利用しようかとかなり迷った。 それでもやはり乗り換えや所要時間にロスが大きく、折角早起きするのに勿体無い気がしたので、名古屋から高山へ向かう高速バスを途中まで利用することに。 ただし、これは東海北陸自動車道の「郡上八幡インターチェンジ」が降車場所となり、町の中心部へは自力で移動しなくてはならない。

朝の5時に起きて、留守中の『ますたあ』の食事を整え、夜明けとともに鳴きだしたウグイスの声に見送られつつの出発。 東海道新幹線では普段の自由席二車両分が貸切になっているとのホーム・アナウンスで、何かと思ったら、ドアの傍に『修学旅行』の電光掲示が。 ああそんな時期なんだな、と、妙に納得。 下り方向に乗ることは滅多にないので、車窓の光景もいちいち新鮮で、「あっ浜名湖!」などと思う間に名古屋に着いてしまった。

ここで予定通りの朝食タイム。 新幹線の改札を抜けて在来線ホームへ移動し、立ち食いのきしめん屋さんへ。 お行儀が悪いけれど、立ち食いには独特の美味しさがあるような気がする。 普段利用する機会がないだけに嬉しさもひとしおだ。 だしが濃くて、それでいてあっさりと美味しいきしめんは、結構もちもち。 ちゃんとその場で、オーダーが来てから揚げ物を揚げてくれるのが素晴らしい。 「ちょっと待たせるよ~。 だいじょぶぅ?」、ちゃんと聞いてくれるおばちゃんも優しい。 まだ寝ぼけている身体に温かいものは優しく、スーツ姿のサラリーマン達に混じって、味わいつつも、そんな素振りを見せずにそそくさと啜り、満足満足。 旅行してるなあ、という気になった。 やっぱり非日常って大事。

駅のロータリーから高速バスが出ているので、迷うことなく乗車。 名鉄名古屋から来たバスは、平日なのに先客が思ったより多く、バックパッカーの外国人や、若い人たち、いかにも観光旅行の女性グループなど。 車窓から名古屋城を見たり、潰れているインターチェンジ傍のラブホ群などを横目に、時折ウトウトしながら1時間強で郡上八幡インターチェンジまで。 何にも無い高速道路の片隅にぽつんと落とされたような停留所で、あまりにあっけない。 ピーカンでお日様が眩しい、暑いくらいの陽気だった。

これまたなーんにも無い取り付け道路をてくてくと下ってゆく。 町内を巡回するコミュニティバスの到着まで、まだ時間がたっぷりあったので、散策を兼ねてのんびり歩いてみた。 農家の家構えがどれもこれも凄く立派だ。 庭も丁寧に整えられており、池に錦鯉が泳いでいたり、小さな噴水まで設えてあったりする。 リッチな土地なんだなあ、という第一印象だ。 日陰も無く約1キロ、国道に突き当たった時にはそこそこ汗をかいていた。 この暑さでこのまま歩き続けるのは辛いな、と、バスを待っていると珍しくタクシーが通ったので、思わず停めてしまった。 ちょうど昼食を自宅で摂り、町中の会社まで戻る途中だという運転手さんはジーパンにTシャツ姿だ。 「今日は一気に夏が来たみたいですよ!」と、運転手さんも驚きの暑さらしい。 が、「今朝なんかはとても冷え込んで、まだストーブつけてましたよ。」などと続いたので、こっちも驚いてしまう。 「この辺りは日が沈むとぐぐっと冷えますから、早めに宿に戻った方が良いですよ」だそう。 はい、覚えておきます。

とりあえず町の中心部に近い所にある今夜の宿まで届けてもらい、手荷物を預かってもらった。 快く予約を引き受けていただいてはあったものの、女性一人の宿泊ということもあり、ちゃんと早めに顔を見せてご挨拶しておきたいという気持ちで。 (つづく) 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2010.01.09

でんのう牛乳

機会があって前を通ったので、JA三島函南の農産物直売所を覗いてきた。 店内ではこの時期でも青々としたブロッコリーや芽キャベツなどが豊富に並び、真っ赤なイチゴとの対比が眩しいくらいだった。 最後に冷蔵ケースを冷やかすと、見たことの無いパッケージの牛乳パックが目に付いた。

傍には手書きのポスターが貼られ、近くにある田方農業高校の生徒たちが育てている乳牛から商品化した牛乳との旨の説明書きが、マジックで手書きされている。 何から何まで手作りっぽくてなかなかイイ感じ。 200cc入りの小さな紙パックで、ひとつ80円。 ふと隣を見れば同じデザインを茶色で印字したコーヒー牛乳も。 迷ったがコーヒーで味を誤魔化されたら悔しいから、シンプルな普通の牛乳の方を選んだ。 細くて短いストローを一本付けてもらって、店の外の陽だまりで早速飲んでみることに。

びっくりした。 美味しい。 それも凄く美味しい。 この辺りでは「丹那牛乳」というかなり美味しい牛乳が手に入るのだが、その存在が霞んでしまうくらいのパワフルな味と香りだった。 学生さん達、あっぱれだ、素晴らしい! 流通や生産量のことを無視して味と値段のバランスだけを考えたら、このパックひとつ150円しても納得できるんじゃないだろうか。

美味しさに感激したので家に戻って早速調べてみたら、こちらに詳しい記事が書かれていた。 出会えたのは偶然のラッキーだったようだ。 覚えておこう。

牛乳の紙パックに学校の校章がデザインされているのもカッコ良かったけれど、ローマ字でDENNOと描かれていたのが「電脳」を彷彿させて、別の意味でカッコ良く見えた。 知っている人からすれば「でんのう」は田方農業高校の略の「田農」だとすぐ分かるのだろう。 ただ、分からないから違うものを結び付けて、余計にカッコ良く感じる面白さもあるのだと思った。

美味しいものと出会えた偶然に、ありがとう。 真面目に牛を育て牛乳を作ってくれた生徒さん達に、ありがとう。 ごちそうさま。 

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2009.11.10

三島散策、ナメコのお土産付き。

過日、秋の良い天気に誘われて、三島の街をぶらぶら歩いてみようということになった。

伊豆箱根鉄道・三島田町駅近辺に車を置いて、三島大社方面へ。 いかにも昔は参道として賑わいましたという感じに商店が並ぶ道を、店先を冷やかしながら進む。 路地からご家族連れが出てきて、お嬢さんが着物を着ている。 あれっ?、と、よく見ればパパもママもそれなりにお洒落した服装だ。 「あー、七五三!!」 すっかり忘れていた。 そうだよな、もう11月だもの。 小さな草履をぱたぱたさせている足元がいかにもおぼつかなくて、逆に微笑ましいが、本人は一生懸命歩いているのになかなか進まなくて苛立っている様子だ。 可愛い。

そんなご家族の後ろをのんびりと進むと、洋菓子店が。 店名を見た『ますたあ』が思わず「ここか・・」とチェックを入れた。 実は数ヶ月前、静岡県下の別の街でたまたま行列を見つけ、誘われるように並んで買ったケーキがとても美味しくて驚き、ネットで調べていたらご実家のお店が三島にあることが判って、一度行ってみたいと思っていたお店だ。 「こんなところにあったんだね。」 和菓子も洋菓子も作っているような昔ながらのお菓子屋さんといった雰囲気。 大ぶりの小麦まんじゅうも魅力的だったが、ここはやはり洋菓子系で、と、スティックタイプのベイクド・チーズケーキとひと口大のチョコレートケーキを購入し、店先のベンチでいただく。 どちらもお店の雰囲気からは想像できない(失礼。)洗練された味と香りで、完成度が高くてびっくり。 こんなお店で(重ね重ね失礼。)こんなケーキをこんな値段で提供しているなんて、侮れないぞ三島! 首都圏だったらひとつ300円くらいには設定できそうなケーキが、驚きの100円台だ。 初っ端から、いやはや失礼しました、と、恐縮する。 場所を覚えたので、そのうちちゃんとしたショートケーキを買いに来よう。

七五三の参拝で賑わう三嶋大社では、境内に露天まで並んで大変な賑わいだった。 みんな着飾っているから、なんだかお正月のように華やかで明るい。 晴れて良かったな、と、思う。 焼きそばのソースやチョコレートの混然とした匂いを背に、住宅街を抜けて「三嶋暦師の館」へ。

京都から移り住んで、代々「三嶋暦」と呼ばれる古い時代の陰暦のカレンダーを司っていた河合家の旧家を文化財として保全し、三嶋暦の資料を展示している。 学術員のような方からの丁寧な解説を聞きながら、建物の内部を見学。 現代と違って、身の回りの情報源が本当に限られていた時代において、カレンダーは単に月日を定めるのみならず、農業や家事、婚姻や出産といった全ての日取りを誘導し、つまりは、一般市民の生活全般を掌握する「権力」として利用されていたとのこと。 奥深さに思わず「うーん」と唸る。 それにも増して、月の満ち欠けを基準とした暦の複雑な算定、陰陽道にもつながる天文観測、風水のような自然の摂理や神様と親しくする方法・・全てが複雑に絡み合って大変なことになっている。 凄く興味を持ったが、半面ブラックホールのように奥が深すぎて怖い気もした。 質問したり答えて教えていただいたり、で、なんだかんだと一時間近く。 お金も取らずに丁寧に対応してくださった学術員?の方にお礼を言って、館を後にする。

さてお腹も空いたので、遅いランチのお店を探しながら路地を歩いていると、初老の女性に話しかけられた。 ごく普通の一般的ないでたちだったので、道でも尋ねられたかと立ち止まると、「小松菜いらない?」、なんと驚いたことに行商の方だった。 ちょっと迷うが、小松菜ならあっても困らないなと踏んで、「じゃあ、せっかくなので。」 全く良いお客さんだな。 柔かそうな瑞々しい小松菜がひと束100円。 傍で覗きこんでいる『ますたあ』が「どちらからいらしてるんですか?」、と、尋ねると、「函南から。」だそう。 「あっ、そうそう、ナメコなんていらないよね?」。 「えっ?いりますいります!(正直なところ、小松菜よりもそっちの方が嬉しい。)」 「買ってくれる? ありがとう。 うちは山でナメコも作ってるもんでさ。 洗うと傷むんで土付いてるから、石付き落としてさっと水洗いして使ってね。 炊き込みご飯にすると美味しいよ。」 「ナメコで? 炊き込みご飯? それはやったことが無いなあ・・」 「あら、美味しいよ。 お醤油でね、ナメコは洗ったら生のまんまお米の上に乗せて炊けばいいから。」 「ふーん、作ってみます。」 「うん、やってみな。 美味しいよ。」 「良いこと教わりました。」 ビニール袋にたっぷり入ったナメコが150円・・なのだが、シイタケほどの大きさが透けて見える。 「これ、本当にナメコ??」、と、いう疑問を飲み込み、少々首をひねりながら、また歩き出した。

「湧水のまち」と名乗っているだけのことはあって、いたる所に小川が流れ清水が湧き、水に沿うように歩道も整備されている。 風も無く穏やかで11月なのに歩いていると汗ばむような気候だ。 水音やせせらぎの音が聞こえてくると、ふっと胸元に涼風が入ってくるような気持ちになる。

三島が鰻で有名なのは百も承知で、何か毛色の違うお店を求め歩いて、ついにブラジル国旗を掲げた小さなお店を見つけ出した。 料理写真のカラーコピーが窓のガラスにたくさん貼り付けてあるが、いかにもあちらの品々という感じで、よく判らないものもたくさんある。 その上、隣接の駐車場にビーチセットのような簡易チェアーを並べて、オープンエアでコロナビールを飲み、現地語でお喋りしている若いおにーちゃんも。 なかなか良い感じだ。 思い切ってドアを開けると、たどたどしい日本語の御夫婦が出迎えてくれた。

名前を覚えられなかったが、小麦粉の皮に、鶏肉や豆・タマネギなどをトマトベースのパプリカ味で煮たものと、黒オリーブ・ゆで卵と一緒に包んでオーブンで焼いた「味の濃い焼ピロシキ」みたいな一品、それにタコライスとバドワイザーを頼んで『ますたあ』とシェアする。 美味しい。 日本でよくあるタコライスとはだいぶ違う。 レタスとトマトがたっぷりでサラダの感覚に近い。 レタスにはちょっと複雑な塩ベースの下味がついていて、その上からパプリカ風味のドレッシングがかかっているので、全体にしっとりして嵩が抑えられ、量が多いのにちゃんと食べられるし、ご飯やひき肉ともよく混ざって一体感が出る。 サルサソースはしっかり辛くて、そこに野菜類のさっぱり感が加味され、全体にトマトの濃いうま味がまとめ役。 これは美味しい! 日本人の料理は最近変なバランスで甘ったるい印象のものが多い中、塩とトマトとパプリカのシンプルな味と香りが、素材を邪魔することなく主張しているのが新鮮だった。

お店の御夫婦と美味しかった旨の話をしていたら、店内に現地食材がいろいろ売られているのを見つけたので、引き続いて覗かせてもらうことに。 色とりどりの乾燥コーン(真っ黒に見えるものもあった。生なら紫色だろうか?)、豆類、ジュースのパックや調味料、よく分からない素材の缶詰が並び、興味津々。 すると、薄茶色の小指の先ほどの硬いものがぎっしり詰められている大きな袋を発見。 コーヒーシュガーかと思って袋の裏を見ると、「乾燥じゃがいも」とある。 カウンターの奥から見ていたご主人が、「それ、美味しいもんじゃないよ」、と言うから思わず大笑い。 「どうやって使うんですか?」 「水と一緒に。(多分、戻すということを言いたいのだろう。) ジャガイモが採れない時に使うけど、日本は生のジャガイモがいつでも買えるから、そっちを使った方が良いに決まってる。」 そりゃあそうだとみんなで笑って、店を後に。 正直者の御夫婦でなんだかありがたい気分になった。

再び帰りの方向へ南下しながら小川沿いを歩いてゆくと、川の中でじゃぶじゃぶと緑色の植物を洗っている方を見つけた。 腰を伸ばしたタイミングを見計らって、「それは何ですか?」、と、声をかけてみると、「ああ、これはね、三島梅花藻(ミシマバイカモ)。 梅の花みたいな花が付く藻だから、梅花藻っていうの。 増やしてやってるんだけど、これから寒くなるとちっちゃいのは黄色く枯れるんで、ひっこ抜いちゃってる。」 「大きな株になれば冬を越せるんですか?」 「そう、多年草だから。」 「へえ~そうなんですか。」 「もう少し歩いて下流に行くと、群生地があって花が咲いてるから見て行くと良いよ。」 「行ってみます。 ありがとうございました。」 なるほど、数十メートル先の川の中では、ワサワサと茂った藻が水の流れに身を任せて優雅に漂っており、よく見ると水面に1センチ弱くらいのクリーム色の花を出している。 小ぶりで上品な花が点々と。 何とも優しげだ。 藻の全体に「逆らわない生き方」が徹底されているように見えて、逆らわないことの強さについてぼんやりと思いを馳せていた。

三島田町まで戻って帰途につく。 よく歩いた一日だった。 見ず知らずの人にたくさん触れ合った気がした。 タイミングは不思議だ。

さて、件のナメコ。 袋から出してみたら、やはりよく売られているナメコより格段に大きい。 しかも、あの独特のぬめりがほとんど無い。 小さいものでも傘の直径3センチ以上。 下処理してから、とりあえずあまりいじらずにそのまんま食べてみたかったので、ひと口大の四つ切りにして、さっと茹でて大根おろしと共に醤油で。 加熱したらいくらかつるんとしたけれど、ぬめりはかなり弱い。 それでも食べてみれば、確かにあのナメコの香りだ。 「ああナメコも普通のきのこだったんだな」などと、当たり前のことを思った。 確かにこれなら炊き込みご飯にしても、違和感なく「きのこご飯」として成立しそうだ。 作ってみようと目論んでいる。 (ちなみに、小松菜はごく普通に美味しい小松菜だった。)

  • ベルーン      三島市大社町 18-3
  • 三嶋暦師の館   三島市大宮町 2-5-17
  • PICA PAU    三島市広小路町 4-7   

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2009.05.18

山頂の爬虫類館

● 日本平動物園へ行く機会があった。 動物園はウン十年振り。(水族館は大好きなのでそこそこ行くのだが。) いかにも「昔からやってます」という感じで、どことなくノスタルジックな香り漂う懐かしい雰囲気だった。 ミミズクが白内障になっており、目はほとんど見えていないらしいが、聴覚が発達しているので生活は自立しているとの解説があったり、アリクイが「足のけがの治療中」とのことでまっ白い包帯を巻いていたり・・。 動物たちも色々とあるのだろうな、などとちょっとしんみりする。

● 「なんだかどこからか鯖臭い匂いがする」と、思って近付くと、そこはペンギンのブースで、餌として鯖を貰っているとの解説に納得。 隣のアザラシは鯵だそうだが、そちらは匂わなかった。 鯖、強し。

● 車道を挟んだ向こうの隣山の山頂に爬虫類館がポツンと建てられていて、晴れていれば「動く椅子」のような施設で移動できるのだが、生憎の小雨模様で操業を停止されており、テクテクと山登りを強いられる。 ちなみに「動く椅子」は別料金。 何故にわざわざ山頂に爬虫類館?? 市街地や海まで見渡せてなかなか気分の良い場所ではあったものの、蛇や亀やワニ・カメレオンなどの唐突さに圧倒されて、不可思議な印象が強く残る。 ワニは微動だにせず、作り物のようでお見事。

● 某乳業メーカー協賛で、地元歯科医師会が「無料乳幼児歯科検診」みたいなものを、動物園内の管理棟でやっていた模様なのだが、雨のせいか入園者自体がまばらで、果たしてどれだけの参加者が集まったのか、他人事ながら心配になる。 帰ろうとしたら、屋根付きベンチでスーツを着た歯科医師2名が男同士でお弁当を食べていた。 隣りのベンチには乳業会社の女性2名が。 一緒に食べればいいのに、とか、動物園で大人がスーツ姿でお弁当という不釣り合いさとか、気になってしまう。 お仕事ご苦労様です・・。

● 幼児を連れた両親と祖父という組み合わせに見えるご家族。 サイのブースに向かって歩きながら、おじいちゃんが孫に大声で、「ホラ、象だ! あれは象だらぁ!(静岡弁で『だらぁ』は『だよ』の意味)」と言っている。 両親は他人のふり。 思わず代わりにツッコミしてあげなくてはいけないような気分に襲われて困った。 おじいちゃん、それは象じゃなくてサイです。 

| | コメント (0) | トラックバック (0)